公認会計士 中田博文のブログ

M&Aの財務税務DDと価値評価を考えながら整理していきます。

財務・経理担当者のためのM&A(1)

第1回

ブログを始めるに至った理由

  • 案件・営業活動以外の時間を生産的に過ごしたい
  • 今までの経験を整理して見える化をしたい
  • 「書くこと」=「考えること」なので、新しい気づきへの期待感
  • 読者からのご指導ご鞭撻

内容

  • 実務上、書籍ではあまり触れられていないことを書いていく予定です。

対象者

  • 経営企画・財務・経理M&A担当者
  • 同業者

 

財務DDの収益性分析

なぜ収益性分析をするのか?

  • 「なぜ収益性分析が調査範囲に入っているの?」と問われた場合、どのようにお答えしますか?
  • なぜこんなことをお聞きするのかというと、クライアントは、対象会社の過去のトラックレコードよりも将来の収益性に価値を見出して買収を検討しているにも関わらず、監査法人系の調査業者が行う財務DDは、対象会社の過去3期間に調査範囲を限定しているため、クライアントの知りたいこと(将来の収益性)と財務DDの調査範囲(過去の収益性)にミスマッチが生じているケースが多いと常々感じているからです。
  • 業者の財務DDの調査範囲に、将来計画の分析を含めればいいのですが、彼らは将来計画の分析をやりたがらない傾向があります。表向きは法的リスクを考慮した判断と思われますが、実際は、監査法人出身の会計士集団であるため、過去の決算分析はできるけど、将来計画の分析はリスクが高いと勝手に思い込み、やっていないと個人的に思っています。
  • その結果、「やる気がない」→「やらない」→「業者内でノウハウが蓄積されない」のループが続き、クライアントへの陳腐な報告内容として、その「つけ」が回っている状況です。これは高い報酬を支払うクライアントにとって非常に由々しき事態です。
  • 書き出しの回答は、「過去のトラックレコードから将来計画の達成可能性を判断するに資する材料を抽出して、適切な判断を行うために収益性を分析する。」となります。重要な点は、判断材料をクライアントと共有したうえで、業者としての結論を出すことにあります。財務DDの業務を請け負った限り、ここまでの仕事がプロフェッショナルの責務と考えています。
  • 将来計画の分析をクライアントに任せて、「貴社の将来計画の分析手法に、我々の過去分析を合わせるので、どうすればいいかご指示下さい」という質問をする業者もあります。そのような業者は、真面目な振りをして、仕事の中身を全く分っていない業者であることが多いです。
  • 酷い業者になると、将来計画を一切見てもいないこともあるので、早い段階で「過去分析の結果から、将来計画のリスクは、どこに、どの程度ありますか?」と聞いてみてください。「えーっと(汗)。確認してご連絡します。」と回答するような業者は、次からの起用を見直されたほうがいいです。

具体的な分析方法

  • 最初の目標は、利益の源泉の特定です。事業別、地域別、製品別、得意先別等の分析はあくまでも手段です。重要な点は、手段から結論を導き出すことにあり、結論のない分析結果は「ライスのないカレー」です。
  • 次に、利益の源泉は、今後維持、発展できるかという問いに対する手段として、法的規制の状況・変更の有無、得意先・仕入先の統合の可能性、製品ライフサイクルの状況、商品・為替の相場状況、競争環境、新製品の導入等、ファイブ・フォース分析を少し拡張して検討します。
  • 具体的には、案件の初期段階で、A3白紙に、ビジネスフロー、プレーヤーを書き出して、過去、現在、将来の各プレーヤーのパワーバランスを検討する作業をします。そして、新聞記事、市場予測データ等の情報も参考にしながら、将来計画に対するリスク項目を紙に書き上げていきます。、その紙切れと対象会社の将来計画を見比べて、簡単なイシューリストを作成して、キックオフ付近の出来るだけ速い段階で、クライアントに報告するよう心がけています。

次回は正常収益力分析について考えたいと思います。