公認会計士 中田博文のブログ

M&Aの財務税務DDと価値評価を考えながら整理していきます。

財務・経理担当者のためのM&A(4)

 第4回

運転資本(Working Capital)分析

工事前受金

  • 対象会社が建設業・ソフトウェア業の場合、工事前受金(正確には未成工事受入金)が負債計上されていることが多いと思います。
  • 工事前受金とは、工事案件(有形)及びソフトウェア開発案件(無形)は売上計上までの期間が長期に渡るため、得意先から売上の数%を案件受注時(契約時、マイルストーン時など)に受領する前受金のことです。
  • M&Aにおいて、この工事前受金が登場する場合、運転資本の範囲に含めるか否かが論点となります。
  • それぞれの論拠は以下のとおりです。

区分

論拠

運転資本

前受金は、返済不要の資金であり、正常の営業過程で発生する債務である。

ネットデット

前受金は、資金使途が工事資金に制限されるため、現預金からマイナスする。

  • なお、運転資本又はネットデットの議論の対象は、「基準時点の工事前受金残高」である点に注意してください。事業計画期間は、工事前受金を運転資本として取り扱います。(下図の参考がおかしな結果になることをご確認下さい。)
  • DCF法による株式価値算定時の金額的な影響3は、工事前受金の残高30と残高30に計画1年目の割引係数0.91を乗じた金額27との差額になります。また、ネットデットとする場合は、計画1年目の運転資本の増減に注意が必要です。これらは、前回のブログ(第3回)で説明した未払法人税と同じです。
  • 個人的には、工事案件の実態に適合するため、工事前受金をネットデットとする方がしっくりきます。が、入札時の提案書や株式譲渡契約(SPA)において、工事前受金をネットデットとして記載する場合、売り手に対する印象が悪くなる可能性(事業価値から控除している点)及び交渉のネタとなる可能性(控除しなくてもいいのでは?とチャレンジされる)があるため、実務上は運転資本にすることが多い気がします。(交渉のパワーバランスに依存するというのが正確なところです)

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  • 次回は、前受金を検討します。