財務・経理担当者のためのM&A(9)
運転資本(Working Capital)分析
滞留資産がある場合の処理方法を整理します。
純資産法の場合は単純なのですが、DCF法、倍率法では少し手間をかけます。
滞留資産(債権・在庫)
まずは、滞留の発生要因を確認します。
債権の場合は、一過性の取引先の倒産・経営不振が大半のケースですが、新興国への輸出債権がメインのため一定比率が継続的に滞留となる、又は一般消費者向けの小口債権のため、一定比率で滞留となるというケースもあると思います。滞留の発生要因をビジネス環境分析及びマネジメント等への質問によってチェックします。
在庫の場合は、製品の作りすぎ、型落ち(モデル変更)を理由とする過去の特定事象に原因のある滞留なのか、もしくは、在庫を保有することが対象会社の強みになっているケース(部品大手のモノタロウ、ユザワヤ、東大阪の部品卸等)なのか、販売の機会損失を避けるために、一定の滞留発生を前提に生産・仕入れをするケース等、案件別に理由が異なりますので、ここは丁寧に要因を詰めます。その際、対象会社の滞留の定義、現在の滞留状況、事業計画を作成している場合は、計画における反映方法も併せて確認します。
次は、発生要因別に価値評価への反映方法を考えます。
一過性の場合
DCF法
- 基準日(0期末)の売掛金及び在庫の中に滞留債権及び滞留債権(資産価値ゼロとします)がある場合、基準日の運転資本残高からそれぞれ控除する。
- 0期末→1期末の運転資本残高の差額が大きくなるため、運転資本の増減は控除しない場合と比較してマイナスに影響する。
- その結果、FCFが減少し、滞留資産の影響(資産価値ゼロ)を考慮した事業価値が算定される。
- 0期末の滞留在庫の処分費用等が発生する場合は、デットとして事業価値から控除する。
倍率法
- 正常収益力分析で、過去3期間の損益に滞留にかかる損失を調整済みかと思います。調整後のEBITDA(直近LTM及び翌年度)に倍率を乗じて事業価値を算定します。
- 0期末の滞留在庫の処分費用等が発生する場合は、デットとして事業価値から控除する。
継続的に滞留が発生する場合
DCF法
- 基準日(0期末)の売掛金及び在庫の中に滞留債権及び滞留債権(資産価値ゼロとします)がある場合、基準日の運転資本残高からそれぞれ控除する。
- 将来期間の運転資本を算定する際に、滞留分を控除して計算した回転期間を用いて算定する。
- 0期末→1期末の運転資本残高の差額は、運転資本の増減は控除しない場合と同額となる。
- 将来期間について、毎期の滞留発生分について貸引繰入、評価損、処分費用を追加的に計上してFCFを減少させる。
- 滞留資産の影響(資産価値ゼロ)を考慮した事業価値が算定される。
- 0期末の滞留在庫の処分費用等が発生する場合は、デットとして事業価値から控除する。
倍率法
- 正常収益力分析で、過去3期間の損益に滞留にかかる損失を調整済みかと思います。調整後のEBITDA(直近LTM及び翌年度)に倍率を乗じて事業価値を算定します。翌年度の調整が漏れるケースが多いので注意が必要です。
- 0期末の滞留在庫の処分費用等が発生する場合は、デットとして事業価値から控除する。
DCF法の計算例
滞留債権のケースですが、滞留在庫の場合も同じです。
大手FASの場合、財務DDと価値評価の担当者が異なり、連携がうまくとれていないため、DDレポートと計算結果が整合していないケースが多いです。もちろん、整合している場合もあります。