公認会計士 中田博文のブログ

M&Aの財務税務DDと価値評価を考えながら整理していきます。

財務・経理担当者のためのM&A(8)

第8回

運転資本(Working Capital)分析

 

運転資本の回転期間

財務DDで運転資本の回転期間がポイントとなるのは、価値評価に影響を与えるからです。

具体的には、DCF法によるFCFは、EBITDAに運転資本の増減を加味して算出するため、回転期間の設定如何によって、価値評価の金額が増減します。

 

そのため、重要なのは、「事業計画において、回転期間を何か月で設定するのか?」であり、それを過去の実績および質問(将来の取引関係の変化の有無)によって、明らかにするのが、財務DDにおける意味のある分析となります。

 

会計監査的に過去推移を分析するだけでは不十分であり、将来予測の判断材料を集めるために、もう一歩深く突っ込んだ作業が必要となります。

 

今まで見てきたレポートの悪い例

  1. 過去期間の回転期間を示すだけで、将来に対する分析・コメントがない
  2. 事業計画において、新規事業及び廃止事業を見込むものの。運転資本の変化に対する分析・推察がない。
  3. 事業計画において、取引先・仕入先のシフトを見込むものの、運転資本の変化に対する分析・推察がない。
  4. EBITDA分析、Debt-likeと整合していない。
  5. 滞留債権、滞留在庫を整理せずに回転期間を算出している。
  6. 過去期間の著しい増減の要因を分析して、回転期間の平準化にトライしていない。

 

大手会計事務所(特に東京)は、いわゆるセクショナリズムに陥っているため、財務DDチームのスタッフで価値評価の経験があるのはレアケースです。そのため、大手の財務DDレポートであっても、残念ながらピントがずれているケースがよくあります。

 

そのため、発注側としては、大手の看板に騙されないで、チームメンバーの経験・能力をきちんと評価することが大切だと思います。上記の「運転資本の回転期間分析の意味って何?」のような質問を投げて、アドリブで案件状況に応じた適切な回答ができるか、一度試されるといいかも知れません。